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レイは部屋で一人腕を組んで唸っていた。
楽しく酒を飲み、宿に帰ってきたのはつい先程の事である。
「むうぅ、でもどうしよう?」
しかし窓に覗く月を見てなんとなく、大胆になってみようかなぁ、と思ったのである。
否、月など見なくても多分そうしていたのだろうが。
深夜半、彼女は決意を胸に隣の部屋の戸を叩く。
「アズ〜」
そっとノブに手をかけ、捻る。
――あれ、開いた・・・・・・?

朝の光にアズは目を覚ますと、瞬間的に顔を強張らせて、ベッド脇に置いてあった剣を手にする。
そして多分使うことにはなら無いだろうとは思ったが、鞘に手をかけていつでも抜刀できる状態にし、規則正しい間抜けな音の聞こえる方へ僅かずつ体を寄せる。
音源はどうやらベッドのすぐ脇である。
(殺気があるなら気づいていた筈だ・・・・・・・ だけど、嫌な予感がする)
意を決してベッドから身を乗り出し下を確認する。
予想は的中だった。
「やっぱり・・・・・・」
二日酔いではなく、頭が痛くなった。
「こういうのは面倒なことになるから最近は極力避けてきたのに」
俺もまだ青いなと、思わず自身に嘆息する。
(しかし、盗賊の類ならまだ遣り様があるんだが・・・・・・)
とにかく剣は収め、昨日は何があったか、よくよく頭を巡らせてみる。
思い出すのは、酒を飲み、今目の前に呑気そうに夢結ぶ女と宿まで一緒に戻った事。
それから別れたとは思うが、その後の記憶はない。
だが酔い潰れた記憶もまた無かった。
「待てよ、ってことは未遂か? ベッドの上じゃなくて床にいるし」
彼は床で眠る女に視線を注いだ。
すると突き刺さるような視線に居心地の悪さを感じ取ったのか、彼女は魘されながら床をごろごろ寝返りを二度うった。
そしてやがて、その為に痛めたのであろうか、腰を抑えながら、彼女はおもむろに背を起こした。
寝乱れて額に張り付いた猫っ毛の淡藤色の髪をわしゃわしゃとかき上げて、少しずつ、髪よりくっきりと色濃い紫の瞳を開いてゆく。
「あいたたた、あ・・・・・・」
彼女はアズを見て一瞬ハッとしてから、苦笑を浮かべた。
「おはよう、アズ」
「レイ・・・・・・」
少し卑怯だとは思うが、こういう際どい場面では、女の出方を見るのが得策だと、経験上アズは思った。
よって彼は名だけを呼び、それから黙って彼女の言葉を待っていた。
「ごめんね」
「いや?」
(謝られたぞ?)
何故謝罪なのか、彼は内心驚いたが、こういう時に男が変に慌てるのもどうかと思い、落ち着いた風を装った。
すると再び彼女が口を開く。
「アズ、昨日は楽しかったね」
(楽しかったね、とは色気ない表現だよな。やっぱり何もなかったのか)
アズは内心胸を撫で下ろした。

レイは一瞬目の前に人がいる事に驚いてしまったが、だんだん鮮明になってくる頭でこの事態を招いたのは自分である事を思い出すと、いつの間にか眠りについてしまっていた自分に苦笑いをした。
「でも・・・・・・」
「でも?」
(私なんかアズに話があって、けど来てみたら寝てたからいつの間にか自分まで寝ちゃってたっていう情けなさなのに、アズは私が部屋にいてもあんまり驚いてないみたい。黙って座って言葉を待ってるなんて、経験をつんでる証拠だ)
「すごいね、アズ」
「すごい?」
不審に思われて当然の状況下で、アズは動じた様子をみせないのは、きっと私が盗賊でも一歩動いたら途端に斬り伏せる腕があるからなのだとレイは感心していた。
(遺跡発掘、やっぱり一緒に行って欲しいよ。絶対に心強い。うん、今日こそ言わなくちゃ)
レイは意を決してきり出した。
「ね、アズ。やっぱり付き合って貰えないかな?」
アズは困惑の表情を浮かべて、一瞬言葉を詰まらせる。
がしばらくして口を開いた。
「悪いが俺は・・・・・・」
心底申し訳なさそうな顔をする彼に、レイは胸を抑える。
(そもそもアズにメリットは無いし、無理なお願いをしてるのは私なのに・・・・・・・ アズ本当に申し訳なさそうな顔をしてる)
けれどあの時、彼の剣に惚れこんだのだ。
引き下がれば今、彼と別れるだけ。
頼み込んで見る価値は、絶対にある。
レイは自分の想いを話してみよう、そう思った。
「私やっぱりもうちょっと一緒に行きたいなって。初めての、その・・・・・・・・・・・だし・・・・・・・」
初めて旅でできた友達だと言いたかったが、きっと否定される、それにそう思っているのはきっと自分だけだろう、そう考えると語尾の方は聞きとれない程のか細い声になってしまったが。
「うぅっ」
アズは急に青ざめて、小さく「確定」とか呟いていた気がした。
それから何かを考え込んでいるようだった。
(そうだ、私の目的からをはっきり言わないとアズも困っちゃうよね)
レイはポシェット一枚の地図を取り出し、ベッドの上に広げた。
「もし、もしアズがだめなんだったら、私も本当は魔剣探しについていきたいんだけど、でもそれでもダメなら・・・・・・ ここまででいいの」
「は? 期間限定って事か?」
その時彼は初めて驚きを見せた。
それから乗り気とは到底言え無いが、それでも地図に目を通す。
地図中央には遺跡内部の造りが描かれているが、右上部分に別括りにされた遺跡入り口の場所に目を止めて呟いた。
「近い、な。ダラスラからすぐだ。今発ったとして五日あれば着くか・・・・・・」
アズは地図を見つめたまましばらく神妙な面持ちで考え込んでいた。
が、やがて吹っ切れたように言った。
「あぁ〜、わかった、ここまででいいんだな? ここまでだぞ? この遺跡探索までだぞ?」
「わわわ! やったぁ! ありがとうアズ〜!」
頭を抱えているアズの横で、レイは両手を挙げてはしゃぎ立てた。
「じゃあアズ、朝ご飯食べに行こう! 夕方にはベリングのところに行って、それから一緒に出発だね!」
レイは善は急げとばかりにハイテンションでアズを引き摺り入り口へ猛進して行く。
「あぁ、しょうがねぇな〜・・・・・・ っておい! 金! 金持ってかないと! つーか貴重品もだっ!」
このひょんな勘違いが、二人の軌跡の始まり・・・・・・
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